問題
抜き打ちテストのパラドックスについて
と同じ問題であるが読者の気を引こうとした余計な部分を除いて問題を
もう一度述べる。
問題:この学生の主張は直感的に怪しいが、問題となる点は多くない。 ひとつは(4)の部分である。
次のように書かれた告知が張り出された。
(1) 来週の月曜から金曜までの間に1回だけテストを行う。
(2) どの日にテストを行うかは、当日にならなければわからない。
学生の主張:
(3) 試験が行われずに木曜の夜になったとすると、 残り一日しかないので残りの金曜日にテストがあることがわかる。 したがって前もってわからないという(2)の条件に反する。
(4) このことから金曜日にはテストがないことがわかる。
(5) 金曜日にテストがないということから木曜日がテストの可能 な最後の日になる。
(6) 以上の推論を繰り返すとテストは行われない。
いや、わからないだろう。
もう一度水曜の夜の時点で考えて見よう。試験が金曜日なら、
つまり、木曜に試験がなければ、残り一日であり金曜日が試験だとわかる。
しかし、木曜日に試験があるかどうかはこの時点ではまだわからない。
つまり水曜の夜の時点で考えることは、
(a) 試験が金曜日だと仮定すると、木曜日の夜に試験掲示に矛盾が発生する。しかし(d)は(b)に反するのではないか。 試験が金曜日でなく木曜日だと推論するのは、 金曜日だと試験日が前日に分かってしまうからである。しかし、 その推論の結果として、試験が木曜日でも前日に分かってしまうことになる。 それなら試験が木曜日だと考える根拠はない。 (a)で発生する矛盾は掲示そのものの性質だが、 (d)が(b) に反するという矛盾は学生の推論から発生するものである。 この矛盾に対して試験官が責任を持つ必要はない。
(b) 試験が木曜日だと仮定すると、(a)のような矛盾は発生しない。
(c) (b)より、試験は木曜日である。
(d) (c)より試験の日が分かったことになり試験掲示に矛盾する。
(a) 試験が金曜日だと仮定すると、木曜日の夜に試験掲示に矛盾が発生する。この論理からでは試験日が木曜日だとは断定できない。 予告期間一日の抜き打ちテストは矛盾だが、 期間が二日あれば矛盾なくテストができる。
(b) 試験が木曜日だと仮定すると、(a)のような矛盾は発生しない。
(c) したがって、試験は木曜日である。
(d) 試験の日が分かったことになり試験掲示に矛盾する。
(e) 木曜日でも金曜日でも矛盾するので木曜日とは断定できない。
(f) 木曜日と断定できなければ、木曜日に試験ができる。
(g) 金曜日は矛盾するから、試験ができるのは木曜日だけである。
(c) したがって、試験は木曜日である。
(d) 試験の日が分かったことになり試験掲示に矛盾する。
(e) 木曜日でも金曜日でも矛盾するので木曜日とは断定できない。
……
ジグソーパズル。
ジグソーパズルの最後の1ピースは考えるまでもなく入る場所がわかる。
だからと言って、すべてのジグソーパズルの入る場所がわかるわけではない。
最後から2ピース目を入れたときに、
同時に最後の1ピースの入る場所も決まるのである。
いや、最後から2ピースに限ったことではなく、1ピース1ピース置く毎に、
残りのピースの置ける場所は限定されていく。
抜き打ちテストでも、最後の日になると試験の日が分かってしまうのは、
それまでに試験が行われなかったことによる。
それまでに試験が行われなかったという情報を得たことによって、
最後の日に試験が行われることがわかるのだ。一日試験が行われなければ、
残りの日に試験が行われる確率が高くなるのである。しかし、
試験が行われなかったことを知るためには、
試験が行われるかもしれないという危険を冒さなければならない。
金曜日に試験が行われることを知るのは、
木曜日までに試験が行われなかったことを知っているからである。
水曜の夜までに試験がなかった場合、試験が木曜なのか金曜なのかは、
ジグソーパズルの最後の2ピースのように、
片方が決まればもう片方も自動的に決まるという関係にある。
木曜の夜ではその片方がもう決まっていて、それゆえ、最後の日に試験があるか
ないかも決まっているのである。
その特殊な日の推論を自動的に他の日に適用することはできない。
使わなかった自由度。
昔、統計で自由度という言葉を聞いた。今回それで説明しようと思ったが、
実は自由度という概念をよくわかっていなかった。
ゲーデルの不完全定理のような大げさなものではないが、
やはりよくわかっていないものを使うのはよくないと思い、
ジグソーパズルで説明することにした。
この方が地に足がついている気がするし、
権威を引用していない分だけ反論もしやすいだろう。